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最高裁判所第一小法廷 昭和50年(オ)372号 判決

理由

上告代理人寺村恒郎の上告理由第一点について

取締役の任務懈怠により損害を受けた第三者は、その任務懈怠につき取締役の悪意又は重大な過失を主張し立証しさえすれば、自己に対する加害につき故意又は過失のあることを主張し立証するまでもなく、商法二六六条ノ三の規定により、取締役に対し損害の賠償を請求することができるものであることは、当裁判所判例(昭和三九年(オ)第一一七五号同四四年一一月二六日大法廷判決・民集二三巻一一号二一五〇頁)の示すとおりである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

原審の適法に確定するところによれば、(一)上告人を代表取締役とする大栄工業株式会社(以下「大栄工業」という。)は、昭和四二年二月ころ、輪光製作所こと安川敏雄との間で、石油用風呂釜の部品の製作供給に関する下請契約を締結し、その後販売先としての安川との取引の比重を徐々に拡大し、原材料の仕入先に対する支払は、主に安川からの受取手形の割引金で決済していた、(二)上告人は大栄工業の代表取締役として、昭和四二年五、六月ころ、安川の依頼により、その資金繰りのために融通手形の振出に応じ、安川の事業が不振で在庫が増加して資金難に陥つていることを承知していたにもかかわらず、同人の事業に関する調査を行わず、また、安川の倒産に備え大栄工業の支払手形決済のための手段を予め講ずることなく、漫然安川との取引を継続し、同人より受領する受取手形の割引によつて支払資金を得ることができるものと軽信して、同年七月二一日以降の取引期においても被上告人から原材料を仕入れ、同年九月五日安川が倒産したことにより、右仕入取引の代金支払のために振り出した本件(8)(9)の手形の支払不能に陥つた、というのであり、右の事実関係のもとにおいて、本件(8)(9)の手形に対応する取引に関し、上告人に商法二六六条ノ三第一項前段にいう取締役の職務を行うについて重大な過失があつたものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 下田武三 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫)

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